皆さんこんにちは!企業の元研究者だった私のところに論文の査読依頼があり、その対応した結果について今回お届けします。査読者という掲載可否にかかわった経験を共有することで、投稿論文を作成している大学院生や企業の研究者の参考になれば嬉しいです。
論文の査読と査読者
投稿論文(査読あり)は、一般的には作成した論文を査読者数人(雑誌によって異なりますが3人くらい、多くて5人)でその内容について、論理性、有用性、新規性などが雑誌の質に見合うかどうか審査され、最終的には編集者(エディター:実績のある大学の先生などが担う)がそれらの結果に基づき判断します。
私は、以前、研究職で狭い領域ですが、論文を書いて投稿していたこともあり、1~2件/年くらいで、査読の依頼があります。査読者は投稿者が推薦する場合、編集者が選ぶ場合など雑誌によって異なります。
今回の依頼は査読者の推薦が5名くらい書かれていたのですが、私はもともとはそこに入っていなかったので、エディターに選ばれたようです。
論文の内容
当然ですが査読者には守秘義務が生じますので、具体的な内容についてはここに記載することはできませんが、自分の(元)専門領域であり、査読依頼に記載されていた要約を読む限り、興味深かったです。
そのような理由で、査読を受けたのですが、実はこの査読依頼はメールで来ていたのですがジャンクメールと間違えて無視していました。なぜなら、その雑誌自体あまり私の(元)専門領域の研究が投稿される論文ではなく、知らなかったためです。実際に、よくわからないハゲタカ誌からの投稿依頼やエディターになりませんか?的なゴミメールは毎日のように届きますので、そのようなメールと思っていました。ただ、リマイドメールのときに、その雑誌社がエルゼビアであることに気付き、よく読むと査読依頼だったという経緯です。
査読結果
私は、Rejectの判断をしました。
理由としては、実験的なアプローチ自体が、本来調べるべき内容を満たしておらず、引用されていた論文に記載されている内容を真似て試したら、こんな結果だったよ…的な論文で、独創性、有用性が乏しいと思ったからです。
技術的な詳細なコメントは査読者のコメントとして、伝えられますので、丁寧にかつ具体的に実験のどの点が問題であるか、どのような視点が必要か、等についてコメントはしました。
ちなみに、私が知らなかったその雑誌、領域がずれていただけで、かなりインパクトファクター(被引用率:みんなによく読まる雑誌かどうかの指標)が高く、レベルが高い雑誌でした。そんな高尚な雑誌であることもRejectとの判断に至った理由の一つです。
他の査読者はどう判断していたか?
この査読3人の査読者がつけられていました。
査読者1):Minor Revision ⇒ 指摘した箇所を直せば掲載可だよ
査読者2):Major Revision ⇒ 色々注文を付けて、対応できるのであれば掲載を考えてもいいよ
査読者3)(私):Reject ⇒ 掲載不可
となりました。私が最後に引き受けたので、査読者のコメントを掲載したときにはほかの方はもう査読を終えられていました。
他の査読者が、掲載に前向きだったのは正直意外でした。実験の数は多いけど的外れで、そもそも原理原則をよく理解していないと私は感じたのですが、領域が違う雑誌だったからなのか、査読者ももしかすると専門外の方もいたのではないか…といったコメントでした。
投稿する雑誌をどう選ぶか?
今回の著者らは、少しトリッキーな選択をしたのではないかと私は思っています。
少し領域が外れた雑誌で、しかも、インパクトファクターの高い高尚な雑誌をあえて選んだのではないかと推測しました。この選択、もし、私のような直接専門領域が重なる査読者に当たれば気付くような内容でも、専門外の査読者なら実験の正当性だけで、掲載可否の判断をしてしまう可能性はあります。実際に、それ自体はやむを得ないとも思います。
そうであれば、本当に直接専門領域の高尚な雑誌に投稿するよりも、ちょっと外れた高尚な雑誌に投稿してみたほうが掲載されやすくなる可能性も否定できません。
あくまでも王道は、各専門領域に適した雑誌の中からレベルを見極め、投稿することだと思いますが、最近は論文数も多いので、このトリッキーな手法自体は比較的使われているのかもしれません。(お勧めしているわけではないですよ。)
エディター判断は?
結果は、Rejectとなりました。
私のRejectの返信が決め手となってしまったと思うと心が痛みますが、査読者としては雑誌のレベルを維持するのに貢献できたともいえます。
エディターも専門外だった可能性が高く、他の雑誌への投稿も進めていました(ただし、これはエルゼビアの雑誌はおおよそやります)。
おそらく、著者らは査読者のコメントを参酌して、修正した論文を他の雑誌に投稿するものと思います。
論文投稿する人へ
今回のような雑誌の選び方は否定はしませんが、本質とは異なるコメントが返ってくる可能性もありますので、注意が必要です。
レベルの高い雑誌から投稿していく手法は間違えではないと思いますので、時間軸もよく考慮して試してみることが重要です。
Rejectされてもコメントが返ってきますので、それを大切にして、修正等を加えて、再投稿を目指しましょう!!
査読者を終えた心境
久々に論文を査読するにあたり、分析装置や薬品など改めて調べたり、確認したりで、久々に研究的な行為が出来たことは良かったです。研究自体は今でも好きですので、改めて、私自身も将来のキャリアと向き合い、外で自分の能力を試してみたいという気持ちに駆り立てられました。
非常にいい経験が出来たと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。少しでもお役に立てれば嬉しいです。