はじめに
皆さんこんにちは!前回にひきつづき、学術論文の査読に関して皆さんに実態をお届けします。博士課程後期の3年生(D3)ともなると、学位取得がかかる大切な夏だと思います。この時期から秋口にかけて投稿した論文で、掲載可にならないと4年目(D4)を迎えることになってしまいます。そんな切羽詰まった学生さんの役に立てれば幸いです。
前回はリジェクトとなる論文の特徴などについてお届けしました。今回は、ではアクセプトされやすい論文とはどのようなものか?、学術論文の投稿「アクセプトされる方法」についてお届けします。
アクセプトされやすい(掲載可となりやすい)論文の共通項
これまで、いくつかの論文を査読した経験から、アクセプトされやすい論文の共通点を以下にまとめました、
- 目的に対する答えが明確
- シンプルで筋道がわかりやすい、実験の検証が妥当
- 最初の目的設定が的確で、新規性が妥当
- 引用文献が妥当で、ディスカッションでの考察にもうまく活用されている
- 図表がわかりやすい
- グラフィックアブストラクト等の図が論文の内容をうまく表現できている
といったところです。当たり前のように思えるような内容ですが、投稿前に修正を何度も繰り返してくると、だんだん「ここで何を説明していたんだっけ?」というように仕上がっていることもあるので、注意が必要です。
リジェクトされにくい(掲載不可になりにくい)論文の共通項
少し視点を変えて、リジェクトになりにくい(査読者がリジェクトしにくい)論文の共通項を以下にまとめます、
- 実験結果の考察において、論理矛盾がなく、多くの人が同調できる(一般的なイメージからはかけ離れていない)
- 緒言の目的で大風呂敷を広げすぎていない
- 引用論文が適切で、最新のものが反映されている、引用数は少し多め
- 図表の表現および解釈に間違えがない
- 研究の前提がしっかりしていて、条件設定に納得感がある
といったところです。リジェクトに関しては、査読者に回ってくる前にエディターの判断で行われる場合があります。格式高い論文、インパクトファクターが高い論文に投稿する際には要注意です。まずはエディターの初見を突破する必要があります。それでは、どのような投稿をすればいいのか?アクセプトに向けた取り組みについて紹介してきます。
アクセプトされやすい投稿に必要なこと
カバーレター
最近、論文は電子投稿なので、カバーレター自体は必須とはなっていないようです。しかし、カバーレターを付けることで、エディターの初見リジェクトを回避できる可能性が上がります。
学生時代、カバーレターはただの挨拶文だと思っていたのですが、このカバーレターにおいて、投稿論文のトピックを簡潔にまとめて記載する必要があります。エディターは短時間で手元の投稿論文をどうするか判断しなければなりません。カバーレターは端的に研究内容のトピック、掲載されることの意義を訴えるのに適しているのです。学術論文投稿のやり方みたいな本にはカバーレターの活用方法についてはあまり書かれていません。思い切ってカバーレターで投稿論文の宣伝を行い、掲載されれば論文の質が上がりますよ的なことを書けばいいです。
具体的には、タイトル、研究内容、研究成果、掲載されれば論文の質が向上するといった流れです。
もし、共同研究者や先生がその研究分野の権威であれば、その旨をさりげなく記載するのもいいと思います。
私の経験になりますが、カバーレターのおかげで、格式高い雑誌に投稿した際に、エディターから別の雑誌(そちらも格式高い雑誌)を紹介されたのだと考えています。そうなると、次の雑誌ではエディターによるリジェクト率が極めて低くなり、アクセプトされやすくなります。ただ、私は企業の研究員だったため、カバーレターには「投稿論文が掲載されることは工業的な発展に大きく貢献できる」といった内容を書きました。アカデミックの方や学生さんにはあまり使えない文言かもしれません。エディター判断のメールにも「工業的な重要性についてはよく理解できたので、こちらの雑誌を勧めるよ」といった記載がありました。試してみることをお勧めします。
まずはカバーレターを作成してみましょう!
しっかりと論文全体のプロットを作る
先に、アクセプトされやすい論文の共通項、リジェクトされにくい論文の共通項について述べましたが、論文は論理構成が破綻していないことが前提で、はっきりとわかりやすいことが重要です。
イントロダクションを何パラグラフで、何をどの様な筋道で説明し、研究目的に繋げるか、文書を書き始める前にしっかりと準備しておく必要があります。イントロダクションだけで言えば、私が書いた論文では5パラグラフとすることを予めプロットで決めて、ブレずに書きました。
ディスカッション部分も同様です。実験結果の解釈、引用した他の研究結果との関係、目的に対する答えといった流れの中で、実験結果の数と言いたいことについて、丁寧にプロットを作っておくことが重要です。
なかなか難しいのは英文の修正で、意図していない方向にディスカッションが進んでしまうことがあるということです。ディスカッション部分になってくると論文作成も大詰めで、かなり疲れてきますので、「英文をこうしたら?」と言われたら、よく考えずに従ってしまい、当初作ったプロットからかけ離れてしまうケースもあります。これは、私の経験に基づきますが、よく考えずに修正を加えていくとリジェクトが近づいてしまいます。
論文のプロットを作成し、指導教官に確認してみましょう!
よくわからない(わかりにくい)実験結果は加えない
フルペーパーともなると、全体的な長さが足りないのでは?という不安から、十分に目的に合わない実験結果を入れたくなってしまいます。これは、前述のプロットを作るという点とも共通ですが、目的に合わない内容が論文の一部を占めることになりますので、絶対に避けたいところです。
査読者の視点から言えば、「これ、目的からは少しずれた実験だし、そこで考察を展開しても・・・」という感じになってしまいます。また、実験数が多すぎると結局、何を実験で検証したいのかよくわからなくなってしまいます。実験結果については取捨選択を間違えないようにしましょう!
学生さんや若手研究者が論文作成に必要なこと
ここからは個人的な感想に近いのですが、日本の大学の指導教官と学生の関係はあくまでも先生と生徒の関係なので、これまで述べてきた論文の構成や実験結果に対する考察について十分な議論を行わず共通の解釈をしていないまま、論文作成を開始してしまう場合があります。自分が学生だろうが若手研究者だろうが、共同研究者くらいの気持ちでディスカッションしないとなかなか論文作成に一貫性がなく、結果としてリジェクトされやすい論文となってしまいがちです。勇気をもって、強い心で事前の準備を共著者の指導教官と時間をかけて行うことをお勧めしたいです。もし、学生とのディスカッションが出来ない教官であれば、他の先輩を頼るものいいかもしれません。もしかしたら、後輩でもいいかもしれません。プロット段階でいろんな人の意見を聞いてみることが必要です。
いろいろな意見を聞くことが改善の第一歩、臆しない勇気を持ちましょう!
査読者に誰を選ぶか?
私がこれまでに査読した論文は海外の研究者からのものが多かったですが、日本人だからといって日本人の先生を査読者に推薦しない方がいいと個人的には思います。日本の先生は良くも悪くもまじめで何かコメントしなくてはという先生が多く、仕事が忙しいのか?ほとんど読まずにリジェクトする先生もいます。初期のリジェクトを避けるには関係している分野の外国人(中国人は意外と寛大)を選ぶことをお勧めします。
近くの知り合いより、思い切って遠くの仲間を選びましょう!
また、雑誌によって何人推薦してほしいという規定が異なります。普段から関連した論文を読んだ際に、「この人なら自分の研究をわかってもらえるかも」といった感覚でリストアップしておくことも大切です。
査読者から大幅な改定とのコメントが来た場合
論文審査が進むと、エディターが査読者に回しましたというステータスになると思います。ここから、査読者からのリジェクトを避けることが出来た場合、確実にアクセプトされる道が開けます。
以前、査読した論文では、私はメジャーリビジョン、もう一人もメジャーで、いったん差し戻したのですが、もう一人の査読者はなんと20個も質問とコメントを入れていました。これは、地獄。この査読者はメジャーで返したけどスタンスはリジェクトだよねと思っていました。しかし、投稿者はそれらについて非常に丁寧に返答(といっても、完璧なわけではなくそれなりに適当)してきました。結果として、そのリバイスに私はマイナーリビジョンで返し、もう一人はよく対応してくれました、掲載おめでとう的にアクセプトで返しており、結果として軽微な修正を経て掲載されていました。
つまり、査読者がメジャーだろうがマイナーだろうが条件を付けた段階で、丁寧に対応するとアクセプト以外の選択肢はなくなるので、その段階に至れば、心を折らずに丁寧に対応すれば間違えありません。もう一息なので頑張りましょう。
査読者が修正を求めてきたら、ゴール間近!とにかく丁寧に対応しましょう!
残念ながらリジェクトされた場合
時間をかけて作成した論文がリジェクトされた時の精神的なダメージは半端じゃないですよね。私も学生時代は何度もリジェクトに合いました。当時は郵送なので時間もかかり、かなり精神的に疲弊したのを覚えています。
では、リジェクトされた場合どうするのか?まずは、リジェクト理由をしっかりと確認しましょう。少なくとも別の雑誌に投稿するとしても指摘された点は改善して投稿した方が掲載の近道です。
リジェクト理由には重要なヒントが含まれていますので、しっかりと理解したうえで、次の投稿へ頭を切り替えて挑戦しましょう。
当然ですが、査読者については、他の人に変えたほうが無難です。誰が高評価だったかまではわかりませんので、同じ査読者では同じ結果になる可能性がありますので、その点は注意が必要です。
最後に
先日、学術論文の査読をしたのをきっかけに、長々と論文の投稿と査読の関係について書きましたが、私は元研究者で現在は、研究の領域から離れています。しかし、あえてこれから論文投稿したり、論文がリジェクトされて落ち込んでいる方へお伝えしたいのは、論文は研究レベルだけで評価されているわけではないということです。エディターや査読者とのコミュニケーションだと思い、とにかく試し続けることが大切です。多くの雑誌があなたの投稿を待っていますよ!
最後までお読みいただきありがとうございました。もし、質問等がありましたら、気軽にコメントを送ってください。
以前も紹介しましたが、私はこの本から多くのことを学びました。研究者を目指す方には必読書です。以下の広告リンクからのご購入をお勧めします。論文のアクセプトにも心の支えになります。